松くい虫とは


Q1: 松くい虫について教えてください
松くい虫によるマツの集団枯れ
        松くい虫によるマツの集団枯れ



A1: 松くい虫とは何を指しているのでしょうか
 
 次のように,いろいろな見方があるので,誤解が生じるもとになっています。県や市町村の林務担当者や林業にかかわっている人が言うときは(1)の意味です。(松食い虫,まつくい虫ではなく,「松くい虫」と書く習慣になっています)

(1) 梅雨の頃まで元気だったマツが夏を越して枯れる現象のこと。

  ××のマツが松くい虫で枯れたという言い方をします。マツを大量に枯らすマツ材線虫病のことです。
 

(2) マツ材線虫病を引き起こすマツノザイセンチュウとマツノマダラカミキリの組み合わせ

  病気を引き起こす原因です。外国から侵入した病原生物のマツノザイセンチュウは日本のマツを枯らしますが,自分だけでは他のマツの中に入れません。マツノマダラカミキリに運んでもらうと,元気なマツを枯らすことができます。

 
(3) マツの木に穴をあけ,マツの木を食べて育つ昆虫のことをひっくるめたもの

 カミキリムシ,キクイムシ,ゾウムシ,キバチなどのなかまがそうです。これらの昆虫は弱ったり枯れたマツの木に卵を産んで増えますが,元気の良いマツを枯らすことはありません。  => マツノマダラカミキリ  100年くらい前から,九州地方のマツが集団で枯れる現象が見つかっていました。その後,昭和20(1945)年くらいまでに,瀬戸内海沿岸から静岡県,神奈川県まで被害が広がっています。この原因は昆虫か菌類による害と考えられ,おおぜいの人たちがたくさんの虫や菌類をくわしく調べてみましたが,どの虫も元気の良いマツを枯らすことはありませんし,病気を引き起こす菌類も見つかりませんでした。ただ,何かの病原生物による流行病であるということははっきりしていたので,松くい虫(上記の3)の防除や被害材の移動を禁止するなどの対策がとられました。

 マツ枯れは戦争が終わった昭和20(1945)年ころから紀伊半島や四国に広がり,3年後には41都府県で128万立方メートルも枯れてしまいました。この頃の日本の森林は荒廃したハゲ山が多く,緑化のために各地でマツが植林されていました。 => 全国植樹祭県の木のマツ

 大事なマツを守るために当時の占領軍による行政指導(ファーニス勧告)や,1950年に制定された「松くい虫等その他の森林病害虫の駆除予防に関する法律」が作られたことにより,1960年頃までは被害が少なくなっていました。そして少しずつ増加し,1970年頃から爆発的に被害が増加したのです。

日本全国の松くい虫被害の推移
日本全国の松くい虫被害の移りかわり
 林業試験場九州支場(現在の森林総合研究所九州支所)で,あるとき,マツの木(材)の中に小さな生き物,線虫(せんちゅう)がたくさんいるのが見つかりました。ふつう,線虫という生物は土の中に生活し,木の幹の中で生きている線虫は大変珍しいものです。もしかしたら?と考え,この線虫を松の苗木に入れてみました。すると,そのマツは2週間ほどで枯れてしまいました。

 それまで,樹木を枯らす働きのある線虫がいるとは誰も思っていませんでしたから,試験場の研究者や大学の先生方はびっくりしました。そして,線虫が本当にマツを枯らしてしまうのか,くわしく実験をしたのです。これは,たくさんの病気の原因を突き止めたことで有名なドイツ人のコッホという人の方法にしたがいました。それは,次のような四つのことがらを確かめることです。

 1.病気の原因になる生物(病原体)が病気になった生物から見つかる
 2.その病原体を増やすことができる
 3.病原体を元気な生物の体の中に入れると,その生物が病気になってしまう
 4.発病した生物から,同じ病原体が見つかる

 この方法でこの線虫がマツを枯らすことが証明されました。この線虫は,これまで知られていなかった新しい種類だったので,マツノザイセンチュウと名づけられて,正式に発表されました。


 => マツノザイセンチュウ

 マツノザイセンチュウがマツの木を枯らすことはわかったのですが,どうやって木の中に入るのでしょうか?ここで,松くい虫の中のマツノマダラカミキリが大きな働きをしていることがわかりました。マツノマダラカミキリがマツノザイセンチュウを運んでいたのです。そして,マツノザイセンチュウは昔から日本にいたわけではなく,外国から入ってきたのです。
 マツノザイセンチュウが日本に侵入するまでのマツノマダラカミキリは他の松を食べる昆虫と同じように,枯れた松や弱った松を探して卵を産みつけ,増えてきたのです。ところが,マツノザイセンチュウを体の中に入れて運ぶようになると,元気の良いマツを枯らすことができるようになりました。そうすると,枯れた木が増えるので,卵を産みつけて,マツノマダラカミキリはどんどん増えることができるようになりました。

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