埋土種子組成の調べ方

                     森林総合研究所四国支所  酒井 敦

はじめに

 埋土種子組成を調べるには大きく分けて2つの方法があります。ひとつは篩(ふる)いや実体顕微鏡などを利用し土壌に含まれる種子を直接より分ける方法。もう一つは土壌に含まれる種子を発芽させて芽ばえを数えることにより,埋土種子数を推定する方法(発芽試験法;露崎,1990)です。どちらの方法も一長一短があります。前者はサンプル土壌に含まれる埋土種子をかなり正確に検出することができる一方で,大きな労力を要し,大きなサンプルを処理できません。また。後者の発芽試験法は比較的大量のサンプルを扱うことができますが,発芽期間中に死亡したり,休眠など生理的要因によって発芽しない種子を検出できず,埋土種子組成を過小評価する恐れがあります。こうした議論はBrown (1992)で詳しく検討されています。また,前者の方法は季節を選ばず行うことができ,埋土種子相の季節変化を調べるような場合有効ですが,発芽試験法は種子の生理的な発芽特性から調査時期が限定されます。
 森林の埋土種子は種によっては非常に偏って分布しており(Sakai et al, 2005),経験的に埋土種子の推定には少なくとも1u相当の面積のサンプルが必要と考えられます。それには後者の発芽試験法がより適当であると思います。Thompson (1986) はこのような方法で得られた種子を発芽可能種子(germinable seed)と呼び,真の埋土種子組成とは区別した上で埋土種子相を調べています。ここでは発芽試験法に照準を絞り,私がこれまで行ってきた埋土種子の調べ方を紹介します。

土壌サンプルの採り方

(1)採取時期
 土壌の播きだし時期と関連してきますが,北半球の温帯域では春先に発芽する植物が多いため,土壌のサンプリングも春先(3月〜4月上旬くらい)に行うのがベストだと思います。海外の文献では夏から秋にサンプリングし,温度をコントロールした室内で播きだしを行なっているものがありますが,私は試したことがありません。
(2)サンプルの大きさと数

 サンプリングは金属製の円筒を使うことが多いのですが,私の場合はHill and Stevens (1981) を参考に,ひとつのサンプルサイズを大きくするために20cm×30cmの方形型にスコップを使って注意深く掘りとりました。サンプルの数はひとつの林分で20個以上とるようにしました。また,リター層にも種子があるのでサンプリングする際には注意が必要です。サンプリングの適切な大きさや数についてはBigwood and Inouye (1988) で詳しく検証されています。
(3)土壌の深さ
 一般に土壌が深くなればなるほど埋土種子の数は少なくなります。ほとんどは地表から5〜10cmに分布しているようです。できれば深さ10cmまでサンプルを採るべきだと思います。

土壌サンプルの播きだし方法
(1)播き出す場所
 水が利用できて日当たりのよい場所であればどこでもよいですが,種子の混入を避けるため,できればガラス室などで行うのが良いでしょう。
(2)播きだし法
 ひとつのサンプルに対しひとつのプランター(サンプルの量が多いときは2つ)用意します
プランターに鉢底石と緩衝用の土を敷き,その上にサンプル土壌を均等に広げます。小さい芽ばえでも発芽できるよう,石,リター,根などは丁寧に取り除きます。緩衝用の土は水分を保持させるために入れます。以前バーキュライトを使っていましたが石綿が含まれているので現在では使用していません。代わりに赤玉土を使っていますが,後述するように種子が混入していることが多く悩ましいところです。

芽ばえの同定
(1)ハタを立てる
 あとは芽が出てくるのを観察します。私の場合
最初の1ヶ月は3日おきくらいに観察し,出てきた芽ばえにハタを立てました。異常にたくさん出てくるときがあるので,芽ばえの出た位置に対しハタを立てる場所を決めておくとあとで混乱しません。ハタは爪楊枝とメンディングテープ(幅 1cmくらい)で自作します。識別用の番号はハタを立てる直前に油性ペンで書き込みます。このハタの寿命は約1年です。
(2)同定する

 芽ばえが出てきたらいよいよ同定ですが,最初の子葉の段階では分からないものが多いです。なるべく枯らさないよう注意しながら同定できる大きさまで成長させるのがこの試験の至上命題です。めでたく種名が同定できたらハタとともに植物を抜きます。特にスミレなど草本はすぐに結実して種子をばらまくので,そうなる前に取り除く必要があります。
(3)試験期間
 春先に土壌を播き出すと1週間目くらいから芽ばえが出始めて2週間目〜3週間目くらいに最も多く芽ばえがでます。そのあとはだらだらと2ヶ月くらい芽ばえが出ます。播きだして1ヶ月経過したくらいでセンサスの間隔を1週間くらいにします。ネムノキなどは秋に突然発芽することがあるので油断は禁物です。翌年の春に発芽するものも希にあるので1年間は観察を続けます。


播きだしに際しての注意事項
(1)水
 出てきた芽ばえを枯らさないために水のコントロールは重要です。温室であれば定期的に水を与えていれば問題ありませんが,屋外の場合,特に梅雨期には注意が必要です。コガクウツギなどの小さな芽ばえは強い雨にあたるだけでダメージを受けいつのまにか消失してしまいます。また過湿な土壌条件が続くと芽ばえの枯死率が高くなります。屋外でも雨よけをつけるなどを設置することで芽ばえの死亡率を下げることができます。
(2)外部からの種子の混入
 発芽試験法で最も気を使わなければならないのは,外部からの種子の混入(コンタミネーション)です。特に苗畑で試験を行う場合,周囲から種子が混入してきます。しかもそれらの種子は非常に小さいため寒冷紗などは簡単に通り抜けてきます。また,緩衝用に使っている土に種子が入っている恐れがあります。森林土壌のサンプルからハハコグサ,チチコグサ,チチコグサモドキ,カタバミ,タネツケバナ,メヒシバなどが出てきたら,まずコンタミネーションを疑う必要があります。
 これを防ぐ方法としては次のような方法が考えられます
1.なるべく温室など外部から種子が入って来にくい環境で試験をする
2.苗畑など開放された場所で行う場合はプランターをなるべく高い位置に置き,周囲を除草する。
3.ないよりはましなのでプランターに寒冷紗をかけておく。ただし,庇陰しすぎないように目の粗いものを(1mmメッシュくらい)。
4.緩衝用の土を高温で焼く。または緩衝用の土を使わない。
 

引用文献
Bigwood and Inouye (1988) Spatial pattern analysis of seed banks: An improved method and optimized samoling. Ecology 69(2): 497-507.
Brown, D. (1992) Estimating the composition of a forest seed bank: a comparison of the seed extraction and seedling emergence methods.
Hill, M. O. and Stevens, P. A. (1981) The density of viable seed in soils of forest plantations in upland Britain. Journal of Ecology 69: 693-709.
Sakai et al. (2005) A soil seed bank in a mature conifer plantation and establishment of seedlings after clear-cutting in southwest Japan. Journal of Forest Research 10: 295-304.
Thompson, K. (1986) Small-scale heterogenety in the seed bank of an acidic grassland. Journal of Ecology 74: 733-738.
露崎史朗(1990)埋土種子集団の研究法−種子の教材利用−.生物教材25: 9-20.

(2006年3月20日作成)

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