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氏名:酒井 敦 (さかい あつし)

所属:森林総合研究所 四国支所
    チーム長(人工林保育管理)

専門分野:造林、森林生態、森林植生


 

1.研究テーマ

 (1)低コスト育林
 (2)林業で希少植物保全
 (3)人工林施業に伴う植生の動態
 (4)タイ国における郷土樹種育成

2.最近の研究業績

3.参画中のプロジェクト

4.学会活動

5.略歴


1.研究テーマ

(1)低コスト育林

 育林作業のうちいちばん投資が必要なのが、下ごしらえ、植え付け、下刈りなどの造林初期の作業です。特に下刈りは全育林経費の40%を占めます(写真1)。人工林を皆伐して新しい木を植えようとしても、初期投資が必要になるため、なかなか皆伐に踏み切れないというのが現状です。現在の人工林の齢級構成は35年生以上の森林が多く、若い人工林が極端に少なくなっています(図1)。少子高齢化と言われる日本の人口構成と比べてもその深刻さがわかります(図2)。持続的に林業を続けるためには、人工林を若返らせることが必要であり、そのために初期の育林コストを抑えることが必要です。

 育林コストを抑えるためには、植栽密度を減らす、下刈りの回数を減らすなどの方法が考えられます。その他にも小面積皆伐によって雑草木の繁茂を抑える、皆伐したらすぐに植えるなど作業システムを工夫する方法も有効と考えられます。あるいは、奥地や急傾斜地など、コスト高になる場所で再造林しないことがいちばんの低コストにつながるのかもしれません。地形や植生回復量などの自然条件、路網や施業団地化などのインフラの整備状況、木材需要や市場などを考慮して、各地域で最もパフォーマンスの高い育林技術を提案することを目指して研究をしています。

写真1. 下刈り機を使った下刈り作業。
炎天下の中、足下が悪い中で行う下刈り作業は重労働である。(撮影:北原文章)

(2)林業で希少種保全

 絶滅危惧種とも呼ばれる希少種は、生息地の開発や乱獲など人間の干渉が過剰になったため少なくなったもの(エビネなど)がある一方、草地の維持など人間の干渉が減ったために少なくなったもの(オキナグサなど)があります。林業は天然林を伐採することから始まったので、そうした意味では野生生物の生活環境を奪い、希少種を生み出す要因となってきたのかもしれません。しかし、人工林でも高齢になると希少種を含む多くの植物種が生育できる環境が生まれます。希少種が生息する渓谷部分や尾根筋などを保全するとともに、様々な林齢の林を配置することが重要です。一方で、林業活動をすることで攪乱(※)に依存するある種の希少植物を保全できる可能性があります。
 【事例1】ゴショイチゴは高知県レッドリストで絶滅危惧IA類(CR)に分類されており、土佐町、本山町、高知市(旧土佐山村)などに極めて限定的に分布しています(写真2)。生息地は現在スギやヒノキの人工林が広がっており、探しても道ばたでわずかな個体が確認できるだけです。ゴショイチゴの果実は他のキイチゴ属と同じように動物に食べられ、周辺に散布されています。一般にキイチゴ属の種子は長命で土の中で何十年も発芽の機会をねらっています。このため、間伐や皆伐を進めてイチゴが発芽・生育できる環境をつくってやれば、ゴショイチゴの保全につながると考えられます。
 【事例2】トガサワラは紀伊半島と高知県に生育する温帯性針葉樹で、高知県レッドリストで絶滅危惧II類(VU)に分類されています(写真3)。トガサワラは陽樹なので伐採地など明るい環境がないと更新できません。現在トガサワラ生育地の周辺はスギやヒノキの人工林で覆われており、若い木(稚樹)を見ることはありません。そこで小規模な伐採を行い稚樹を発生させることができるか、四国森林管理局とともに試験を始めています。

(※)攪乱:生態学用語で生物の生育環境に影響を与えるイベントを指す。台風による倒木や河川の氾濫などの自然現象だけでなく、道路建設や皆伐など人間による活動も含む。

写真2.ゴショイチゴの果実(高知県土佐町)

写真3.堂々としたトガサワラの樹形(高知県馬路村)

(3)人工林施業に伴う植生の動態

人工林を皆伐したり間伐したりすると、植生は大きく変わります。どのようなメカニズムで植生が変化し、それがどのような要因に影響されるのかに注目して研究を行いました。

・スギ、ヒノキの人工林には多数の埋土種子があり、これが伐採後の環境変化によって発芽・成長し、植生回復に貢献していることを明らかにしました(Sakai et al., 2005; 2010)(写真4)。ただし、埋土種子をつくるのは先駆性の高い樹種や一部の草本で、その地域を代表するような主要樹種(たとえばカシ類やブナなど)は少ないこともわかりました。

・人工林皆伐跡地の多点調査から、人工林の広葉樹林化を考えた場合、標高の低い場所ではシイ・カシ林になりやすいこと、標高の高い場所では、自然林に隣接した皆伐跡地で主要樹種が更新する可能性が高いことがわかりました(Sakai et al., 2006)。

・人工林皆伐跡地の定点調査から、埋土種子の他にも林床植生が植生回復に貢献していること、植生の回復が遅いところはクローナル成長(クサギやクマイチゴなどで、ひとつの個体が根萌芽や地面を這う茎により水平方向に広がる成長様式)によって植被を増やしていること、大規模な皆伐はモミやツガなど主要樹種の更新を阻害する恐れがあることがわかりました(Sakai et al., 2010)。

写真4. 間伐後ヒノキ林の林床に生えたイイギリの芽ばえ。
林床に光が差し込むと温度変化が大きくなり、種子がそれを感知して発芽する。

(4)タイ国における郷土樹種育成(2007〜2010年)

 国際農林水産業研究センター(JIRCAS)に在籍中の約4年間タイ国で郷土樹種育成に関わる仕事をしていました。私が通っていた東北タイのサケラートという場所は、かつて広大なフタバガキの森林が広がっていたのですが、森林伐採、農地への転換、耕作放棄という過程を経て、荒廃地が広がっていました。そこに早生樹を植え森林にしようというプロジェクトが1980年代からJICAとタイ森林局(Royal Forest Department)によって進められてきました。その結果として2500haに及ぶアカシアやユーカリの森林が造成されました。

 しかし、早生樹だけでなく地元の樹種(郷土樹種)を使った森林をつくろうという流れの中で、早生樹林を伐採して郷土樹種の森林に転換する研究プロジェクトがタイ森林局と共同で始まりました。過去の試験地を復元し、新しい伐採・植栽試験をする中で、次のようなことが明らかになりました(Sakai et al., 2012;国際農林水産業研究成果情報「早生樹林を郷土樹種の森へ転換するには小面積皆伐が必要」)。

・郷土樹種を植栽する場合はあまり成長が早くない早生樹(言葉として変ですが)や、葉層が薄い(林床が明るい)樹種と組み合わせるとよい。

・マンギウムアカシアなど林床が暗くなる樹種の下に郷土樹種を植える場合は、間伐を頻繁に行うか、早い段階で伐採し郷土樹種の成長を促進する必要がある(Sakai et al., 2009; 2010)。

・成熟した早生樹林に郷土樹種を植える場合、早生樹の真下に郷土樹種を植える復層林よりも、小面積皆伐をした後に植える復相林の方が、郷土樹種に対する光環境を維持する上でも作業効率の上でも優れている(Sakai et al., 2011)(写真5)。

Dipterocarpus alatus、Hopea odorata、Dalbergia cochinchinensis などの樹種は、植栽後のメンテナンスをしっかりしていれば裸地に植えてもよい。

写真5. アカシア(Acacia mangium、後側の背の高い木)を小面積皆伐して郷土樹種(手前側)を植えた調査地。裸地に植えるよりも生存率や初期成長がよい。


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2.参画中のプロジェクト

ニホンジカ生息地におけるスギ・ヒノキ再造林手法の開発(交付金プロジェクト H26-28)

コンテナ苗を活用した低コスト再造林技術の実証研究(「攻めの農林水産業」 H26-27)

広葉樹林化技術の実践的体系化研究(「攻めの農林水産業」 H26-27)

残存するスギ天然林の成立過程の解明とシミュレーションによる将来予測(科研費基盤C分担 H26-28)

衛星画像から熱帯雨林の生物多様性を推定するモデルの構築(科研費基盤B海外 分担H26-29)

豪雨・急傾斜地帯における低撹乱型人工林管理技術の開発(交付金プロジェクト H23-26)



3.最近の発表業績(2004年〜現在)

(1)査読論文(日本)

酒井敦、山川博美、清和研二(2013)森林の”境目”の生態的プロセスを探る−趣旨説明−.日本生態学会誌63: 207-209

酒井敦、山川博美、清和研二(2013)森林景観において境界効果はどこまで及んでいるか?日本生態学会誌63: 261-268

北原文章、渡辺直史、光田靖、山川博美、酒井敦、垂水亜紀(2013)スギ植栽木の成長と下刈り対象木の競合状態との関係.森林応用研究22: 1-6

Sakai, A., Sakai, T., Kuramoto, S. and Sato, S. (2010) Soil seed banks in a mature Hinoki (Chamaecyparis obtusa Endl.) plantation and initial process of secondary succession after clearcutting in southwestern Japan. Journal of Forest Research 15: 316-327

Inagaki, Y., Okuda, S., Sakai, A., Nakanishi, A., Shibata, S. and Fukata, H. (2010) Leaf-litter nitrogen concentration in hinoki cypress forests in relation to the time of leaf fall under different climatic conditions in Japan. Ecological Research 25:429-438

野口麻穂子、酒井敦、奥田史郎、稲垣善之、深田英久(2009)四国地方のヒノキ人工林における間伐後6年間の林床植生変化.森林立地51: 127-136

Inagaki, Y., Sakai, A., Kuramoto, S., Kodani, E., Yamada, T. and Kawasaki, T. (2008) Inter-annual variations of leaf-fall phenology and leaf-litter nitrogen concentration in a hinoki cypress (Chamaecyparis obtusa Endlicher) stand. Ecological Research 23: 965-972

酒井敦(2006)森林総合研究所四国支所構内の野生植物目録(pdf). 森林総合研究所研究報告5: 299-310

Sakai, A., Hirayama, T., Oshioka, S. and Hirata, Y. (2006) Effects of elevation and postharvest disturbance on the composition of vegetation established after the clear-cut harvest of conifer plantations in southern Shikoku, Japan. Journal of Forest Research 11: 253-265

酒井敦、酒井武、倉本惠生、佐藤重穂(2006)四国の中標高域における天然林とこれに隣接する針葉樹人工林の埋土種子組成、森林立地48,85-90

Sakai, A., Sato, S., Sakai, T., Kuramoto, S. and Tabuchi, R. (2005) A soil seed bank in a mature conifer plantation and establishment of seedlings after clear-cutting in southwest Japan. Journal of Forest Research 10: 295-304

酒井敦、佐藤重穂(2005)先駆性樹木7種の開花結実フェノロジーと5年間の結実年変動.森林応用研究14: 95-99

酒井敦、篠宮佳樹、鳥居厚志、田淵隆一(2004)棚田跡に植栽したスギ人工林の林床植生.森林応用研究13: 145-149

(2)査読論文(タイ)

Sakai, A., Visaratana, T., Vacharangkura, T., Thai-ngam, R. and Nakamura, S. (2014) Growth performance of four dipterocarp species planted in a Leucaena leucocephala plantation and in an open site on degraded land under a tropical monsoon climate. Japan Agricultural Research Quarterly 48: 95-104

Sakai, A., Visaratana, T., Hongthong, B. and Vacharangkura, T. (2012) Growth performance of indigenous tree species under uneven-aged forest management in Northeast Thailand. In Noda I, Vacharangkura, T. and Himmapan W. (eds) Approach to Sustainable Forestry of Indigenous Tree Species in Northeast Thailand (JIRCAS Working Report No. 74), JIRCAS, Tsukuba, pp. 1-6

Sakai, A., Visaratana, T., Vacharangkura, T., Ishizuka, M. and Nakamura, S. (2011) Growth performances of three indigenous tree species planted under a mature Acacia mangium plantation with different canopy openness under tropical monsoon climate. Japan Agricultural Research Quarterly 45: 317-326

Sakai, A., Visaratana, T. and Vacharangkura, T. (2010) Size distribution and morpholodical damage to 17-year-old Hopea odorata planted in fast-growing tree stands in the Northeast of Thailand, Thai Journal of Forestry 29: 16-25

Sakai, A., Visaratana, T., Vacharangkura, T., Thai-ngam. R., Tanaka, N., Ishizuka, M. and Nakamura, S. (2009) Effect of species and spacing of fast-growing nurse trees on growth of an indigenous tree, Hopea odorata Roxb., in northeast Thailand. Forest Ecology and Management 257: 644-652

(3)その他の読み物

酒井敦(2014)ヤナセスギの秘密.四国の森を知る 21: 6-7

酒井敦、野口麻穂子、伊藤武治、酒井寿夫(2013)高性能タワーヤーダによる間伐木集材後の林床植生変化.四国支所年報 54: 20-22

酒井敦(2012)東北タイ・サケラートにおける郷土樹種育成の試み−特に複層林施業について−.海外の森林と林業83: 3-8 

酒井敦(2011)東北タイ・サケラートにおける食用キノコの利用.海外の森林と林業81: 30-35 

酒井敦、山川博美(2011)森林の“境目”を探る−林縁効果と森林管理−.森林技術 830: 32-33

酒井敦(2008)人工林を伐ると多様な植物が生えてくる.森の芽生えの生態学(正木隆編), 文一総合出版, 東京, pp. 29-44

このほか、森林大百科事典(朝倉書店、2009年)、森の花を楽しむ101のヒント(日本森林技術協会、2005年)などを分担執筆


4.学会活動

日本森林学会、日本生態学会、森林立地学会 会員

Journal of Forest Research 編集委員(2014年〜) 

査読実績:Journal of Forest Research、日本森林学会誌、森林立地、Soil Science and Plant Nutrient、Landscape and Ecological Engineering、Forestry、Annals of Forest Science、Tropics等

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5.略歴

昭和63年3月 新潟県立新潟南高校 卒業
平成5年3月 宇都宮大学農学部林学科 卒業
平成5年4月 森林総合研究所生産技術部植生制御研究室 研究員
平成9年3月 森林総合研究所四国支所造林研究室 研究員
平成13年4月 森林総合研究所四国支所生態系変動研究グループ 研究員(改組による)
平成18年3月 学位取得(東京農工大学農学部連合大学院 農学博士)
平成18年8月 国際農林業水産研究センター林業領域 主任研究員
平成23年1月 森林総合研究所四国支所人工林保育管理チーム長

現在に至る

(2014年7月22日更新)


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