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四国情報 No.8  (1995)

土壌微細形態学の森林土壌研究への応用

 ―森林土壌を透視可能に―

林地保全研究室  三浦  覚

◆土壌微細形態学とは?
 森林土壌の研究にはさまざまなアプローチの仕方がある。理化学性分析,土壌動物や土壌微生物の個体数の調査などは,いずれも試料を採取したのち,破壊状態で分析することが多い。一方で,森林土壌の特性とその形成メカニズムを解明しようとするとき,土壌内部の様子をありのままに観察したいという欲求があった。ヨーロッパでは,戦前からクビエナらによってその先駆的試みがなされてきた。近年,樹脂化学や加工機械技術の発達によって,土壌の固化技術や薄片の作製技術が著しく進歩し,土壌学のさまざまな分野からの要求にも応えられる観察法を提供できるようになってきた。

◆試料の作製方法
 通常,試料の採取には,クビエナボックスと呼ばれる6×8×5cmの四角いブリキ製容器が使用される。容器は,試料を撹乱しないように採取・運搬できるものであれば良い.そのほか,50cc,100ccの採土円筒,フィルムケース,大型試料用の特殊サイズ容器などが使用される。
 採取した試料は,樹脂を注入する前に脱水する必要がある。風乾,アセトン置換,凍結乾燥,臨界点乾燥などの方法があり,試料へのダメージを考慮して,用途に応じて選択する。脱水した試料は,ポリエステル樹脂を注入して固化する。完全に固化した試料は岩石と同様に扱うことができ,薄片にしたり,表面を研磨したり,あるいはそのまま観察や分析に供することになる。
 比較的短期間に処理が行えるアセトン置換による方法では,試料採取から観察に至るまでに3週間程度を要する.ここでは,薄片に仕上げた試料で実際にどのような観察がなされるのか,以下に具体例をいくつか紹介する。

◆何が明らかになるか?
  土壌は無機性物質である固相−気相−液相,並びに,有機性物質である土壌生物と植物体及びそれらの遺体から構成される複雑な系である。地面の下に隠された土壌内部の状態をありのままに観察するためには,これら全ての構成要素をそのままに可視化する必要があるが,今のところ,そのような方法は確立されていない。土壌微細形態学は,これらのうち,主として固相と有機性物質の形態,相互関係−分布,化学組成等を明らかにする一つの手法である。

1)土壌薄片:写真1は土壌薄片の例で,上部の4個はフィルムケースで採取したものでサイズは20×28mm,左下の円形は50ccの採土円筒で採取したもので直径51mm,右下の矩形はクビエナボックスを使用したものでサイズは50×60mmである。
2)土壌構造と土壌動物:写真2aと2bは,褐色森林土のA層とB層である。A層は団粒状構造を呈し,薄片にすると団粒の一つ一つは丸みを帯びた土塊として捉えられ,あたかも宙に浮いているように見える。左上に見える非常に細かな粒は,土壌動物の糞である。土壌動物の活動痕跡,とくにその排泄物は,表層土壌では普遍的に見られるものである。一方,B層は壁状構造を呈しており,孔隙が基質の中に割れ目状に入っている。土壌の基質と孔隙の比率が,A層に比べると逆転している。
3)菌類の土境内分布と有機物の分解:写真3は,乾性ポドゾルのL−F層である。中央の円形の組織は,植物遺体を腐朽菌の菌糸がびっしりと覆ったものである。右上の新鮮な有機物には多数の菌糸が伸びている。土壌中の新鮮な有機物と腐植化が進んだ有機物は,偏光顕微鏡を用いることにより,容易に判別可能である。植物の細胞壁などの主成分であるセルロースは,結晶構造を持つ。新鮮な有機物はこのセルロースを多量に含むため,直交ニコル下では,複屈折現象により淡黄色に明るく輝いて見える。ところが,時間を経て腐植化が進んだ有機物は,非晶質不定形となるために,偏光顕微鏡下でも光を透過しなくなり,暗黒を呈するようになる。これが,有機物の分解過程を判定する良い指標になる。

4)鉱物組成と土壊生成:写真4は,花崗岩由来の赤色土のC層を透過光(左)と,直交ニコル下(右)とで観察したものである。土壌の基質の中に,多くの黒雲母の結晶が認められ,平行なへき開面を見せている。透明な結晶は,石英や長石である。一般に,風化が進んでいると考えられる赤色土においても,下層土には黒雲母のような易風化性一次鉱物が,未風化のまま多数残存していることがある。

◆今後の研究発展の可能性と応用
  以上,薄片による2次元平面内での観察例を紹介してきたが,最近の計測技術の進歩に伴い解析可能な対象と,その応用分野の範囲が一段と広がってきている。注目すべきものとして,土壌の生試料を対象にして,軟�線装置やCTスキャナ装置を用いて,土壌構造や植物根の伸長状態を直接3次元的に解析する例がある。さらに人為的に液体を注入して,リアルタイムで孔隙内での液体の拡散状態を観察すること,また,高分解能透過電子顕微鏡を用いて,土壌内部の特定部位を原子横造レベルで構造解明することなども可能である。
 微細形態学によって,これまで「見えないもの」として間接的に推定されていた現象が可視化され,森林土壊内で起きているさまざまな現象に,新たな光が当てられるようになってきた
 
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